【2019年タイ総選挙】その仕組みがややこしい…暫定結果と今後の見通しは?

2019年3月24日にタイで総選挙が行われました。

タイで選挙が行われるのは実に8年ぶりで、メディアによる推定投票率は80%、ハッシュタグ「#ThailandElection2019」がツイッターのワールドトレンドの上位に入るなど注目度も高かったこの選挙。

私は外国人なので最初は高見の見物。

18~25歳までの約700万人が初めて投票するということでしたが、フェースブック上で学生たちが投票用紙をかざして記念撮影した写真をアップしているのを見て笑っていました

ですが、開票が始まった直後の報道を見て混乱。

タイ貢献党(プアタイ)が暫定議席トップなのになぜプラユット首相が続投???

そこで、これを機に今回のタイの総選挙の仕組みを調べたり、暫定結果とこれからの見通しについてまとめたりしてみました。

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2019年に行われたタイ総選挙のしくみ

上院は軍政が牛耳っている

タイの議会は両院制で、

  • 上院(定数250)と
  • 下院(定数500、うち小選挙区350、比例代表150)

からなっています。

上院議員は、選挙管理委員会と国家平和秩序維持評議会(=2014年のクーデターの首謀者、つまり軍事政権)が提出する候補者名簿から、今回の選挙結果の公示から30日以内に決められることになっています。

ですので、今回の選挙で上院議員は実質軍政によって指名されるということになります。

下院議員の選出方法は変則的

下院議員については、有権者は投票で小選挙区の候補者を一人だけ選びます。

これが同時に候補者が属する政党への投票とみなされますが、そのまま議席獲得とはならず、

  • 各党が獲得した総投票数を下院の定数である500で割り、1議員当たりの平均得票数を算出
  • さらに、各党が選挙区で得た総得票数を1議員あたりの平均得票数で割り、各党が獲得する議席数を算出
  • 比例区については、各党が獲得する議席数の上限を超えない範囲で当選人を配分する

という変則的な制度になっています。

そしてその後、各政党が提出する候補者リストから両院合わせて750人の議員が首相を選出することになります。

 このように、軍政が選挙に強いタクシン派を抑え、圧倒的に有利な条件で選挙戦を進め、選挙後に民政に移行しても政治に多大な影響力を残しておくことができる仕組みになっています。
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2019年タイ総選挙の暫定結果

投票前のメディア予想などでは、

  1. タクシン派の「タイ貢献党」(Pheu Thai:プアタイ)
  2. 親軍政の「国民国家の力党」(Phalang Pracharat:パランプラチャート)
  3. タイ最古の政党で、どちらの味方でもない「民主党」(Democrats)

の三つ巴の戦いになるか、または①と②の一騎打ちになると言われていて、結果は後者になりました。

投票日翌日(3月25日)の選管の発表によると、開票率95%時点での各党の小選挙区の暫定議席は次のようになっています。

1位:タイ貢献党(タクシン派:小選挙区135/比例代表0) 135議席2位:国民国家の力党(親軍政:小選挙区98/比例代表21) 119議席3位:新未来党(反軍政:小選挙区29/比例代表58) 87議席4位:民主党(反タクシン:小選挙区34/比例代表21) 55議席5位:タイ誇り党(親軍政:小選挙区39/比例代表13) 52議席

Thai PBSより:アクセス2019/3/27)

しかし、総得票数では以下のように親軍政の国民国家の力党がリードしています。

1位:国民国家の力党(親軍政) 7,939,9372位:タイ貢献党(タクシン派) 7,423,3613位:新未来党(反軍政) 5,871,1374位:民主党 3,704,6545位:タイ誇り党(親軍政) 3,512,446

(Bangkok Postより)

これらの結果が最終的にどのように議席に反映されるのかはわかりません...
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2019年タイ総選挙後の見通し

首相を自らの党から選出するには上院下院合わせて過半数の376議席を必要としますが、前述のように上院250議席は軍政で占められているので、軍政に必要なのは下院で126議席。

いまのところこの数には届いていませんが、いくつかの小規模政党と連立を組むことで、民政移管後もプラユット氏が再び首相の座に就くことが有力視されています。

実際に軍政、タクシン派ともに多数派工作を本格化させているようです。

(6つの政党が連立内閣を組閣するために手を組む)

きわめて出来レースな選挙において、タクシン派が最大限の抵抗を試みているのが現状です。

今後は、

  • 5月9日までに当選者の確定
  • 5月中に国会召集
  • 6月に組閣

が予定されていますが、タイ貢献党を中心とした6党連合が最終的な選挙結果を迅速に発表するよう申し入れ、EUやアメリカも民主的な政権の誕生を望むという声明を出すなど、内外からの選管と軍政への圧力が高まっています。

2019年タイ総選挙のポイント

テレビ番組に出演し、インタビューに答える「新未来党」のタナトーン党首(Thairathより)

今回のタイの選挙ではいくつかのポイントをピックアップしてみたいと思います。

軍政が予想外に支持を集めた

特にタクシン派にとっては、これはかなり想定外だったようです。

年配や首都圏在住の有権者の中には、軍政が北部や東北部でタクシン派の切り崩し工作をしたり、選挙システムが軍政に有利ということは理解したうえで、それでも新たな政権が誕生することで再び混乱や2010年に起きたバンコク騒乱のような事態に陥るのを避け、政治の安定を求めて親軍政に投票した人が多かったと聞きました。

国王との良好な関係や、インフラ(特に鉄道や道路の建設)に力を注いできたことなど、目に見える成果を上げてきたことも支持を集めた要因の一つに挙げられています。

ただし、軍政になってからタイが安定したという人もいれば、強権政治が敷かれているだけだという人もいて、軍政についての世論は2分しています。

タクシン氏の政治的影響力の継続

タクシン元首相は、2006年の外遊中に起きたクーデターで帰国できなくなっていますが、現在も出身地の北部や東北部の農民層から絶大な支持を得ていることがわかります。

しかし、今後はもしかしたらその影響力に陰りが出るかも知れません。

前述のとおり、軍政が今回の選挙で一つの政党が大勝できないような仕組みにしていて、その対策として加盟政党を設立し、その一つであるタイ国家維持党(タイ・ラクサチャート)から現国王の実姉であるウボンラット王女を首相候補として擁立するという奇策に出ました。

ところが国王が「王族が政治に関わることは許されない」という声明を出し、この党は憲法裁判所から解散させられています。

また、タイ貢献党も後述の「新未来党」に票が流れたことで得票数を減らし、2011年の選挙では265議席を獲得したのが今回は200程度にとどまる見通しとなっています。

タイの政治情勢に変化

まず、これまでの赤シャツvs黄シャツという構図から、軍政を承認するかしないかが争点になりました。

これまでタイの2大政党の一つとして、タクシン派と争ってきた民主党が歴史的大敗。

アピシット党首は「100議席を割るようだったら辞任する」と表明していましたが、その通りになってしまいました。

それから、新しく設立された「新未来党」が、350の選挙区全てで候補者を立てる作戦も功を奏し、若い有権者から多くの票を獲得し、小選挙区では民主党を抜き去り第3位に躍進。

党首のタナトーン氏は「タクシンにもプラユットにも、おかしいと思ったことはおかしいと言う」と発言していますが、基本的に反軍政。

選挙に常勝できる策士であり、権力を得るために民主主義を利用したタクシンと違って、人権、司法の独立、法の支配など、真の意味の民主主義を提唱していくのではないかとひそかに期待しています。

2019年タイ総選挙で安定はおとずれるのか

タクシン派が連立を組んで過半数を押さえると、混乱に陥ることは必至。

下院では首相の選出をすることはできませんが、法案を可決したり予算を承認したりするときに重要な役割を果たします。

また、上院に関係なく不信任案を提出することもできます。

下院議員は選挙によって国民から信任を得ているので、そうでない首相と上院には正当性がないと主張することもできます。

予想通りプラユット首相が続投となった場合でも、連立政権をまとめていかなくてはならず、民政復帰後にはこれまでのように困ったら「暫定憲法44条」(プラユット氏がどんな命令も出せる)というわけにはいかなくなるので、冷静さと忍耐力が求められることになります。

 タイを訪れる方々にとっての影響はどうでしょう?

投票者数よりも多い投票数や、期限までに到着しなかった在外投票用紙など、選挙期間中に起こった問題や、SNSを通じた選挙の不正行為の申し立てなどが抗議行動に発展する恐れもありますので、デモや集会には近づかないように気をつける必要があります。

バンコクではこれから、5月4~6日に行われる新国王の戴冠式の準備が本格化し、警備も厳重になるため、大規模なデモは起こらないのではないでしょうか。

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