
近年、バンコクを含むタイ全土で、大気汚染がとても深刻な状態です。
例年、乾季に入るとPM2.5の数値についての報道がなされるのですが、2019年に入り、お正月明けからほとんど毎日のように汚染状況などについて報道がなされ、首相自らマスクの着用を国民に促すなど、あまり環境問題に敏感とは言えないタイ人も無視できない状況になってきました。
毎朝都心の自宅からうちの大学までマイカー通勤している同僚も

その霧の正体が大気汚染なのがいかにもバンコクだけど。
って自嘲気味に話してくれているほど。
タイに住んでいる人は、年に数回押し寄せる厚い大気中の汚染物質の層によって健康被害の脅威にさらされるわけですが、どんな対策を施したらいいのでしょうか?
コンテンツ:
PM2.5の正体とその危険性

(日本気象協会HPより)
PM2.5というのは、
・大気中に浮遊している2.5μm(1μmは1mmの千分の1)以下の小さな粒子(髪の毛の太さの1/30程度)で、
物の燃焼などによって直接排出されるものと、ガス状大気汚染物質が、主として環境大気中での化学反応により粒子化したものとがある
・ボイラー、焼却炉などのばい煙を発生する施設、コークス炉、鉱物の堆積場等の粉じんを発生する施設、自動車、船舶、航空機等、人為起源のものなどが発生源
・吸入すると肺や血流の奥深くに入り込むことがあり、血管や心臓に悪影響を与える
排気ガスには、二酸化窒素(NO2)などの細かな粒子が多く含まれており、その最も危険なものが、砂粒の20分の1ほどという小ささのPM2.5です。
粒子が大きければ鼻までで侵入が止まりますが、小さいと神経を通って脳にまで届く可能性もあります。
- 目や肌の炎症、頭痛、心臓病などの病気につながる可能性
- お年寄りは心筋梗塞・脳梗塞などの循環器系への影響、さらには認知症や寿命を短くする恐れ
- 子供は喘息・肺炎など呼吸器系に影響を受けやすい(PM2.5値が高い地域では肺機能の発達が遅れた子供が多い)
と考えられているので注意が必要です。


PM2.5を含む大気汚染の指標
ถ้าไม่บอกว่าลาดกระบัง #นึกว่าอยู่เชียงใหม่ 😄
พิกัดถ่ายจากโรงเรียนวัดราชโกษา ลาดกระบัง #FM91
🎥Yiing Varunya pic.twitter.com/k9knUOaatW
— สวพ.FM91 (@fm91trafficpro) 2018年12月21日
(2018年12月20日、バンコクのラートクラバーン地区にある学校の登校時の風景。)
危険度を測る目安ですが、タイでは
- 1㎥(立方メートル)あたりの数値(単位は㎍:マイクログラム)
- AQIという、アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)が定めた大気質指標
を参考にしており、この2つは混同しやすいので注意が必要です。
PM2.5が40.5~65.4㎍/㎥でAQI指数が101~150となっており、バンコク都では安全値を1立方メートルあたり50マイクログラムまで、AQI指標では100を超えると影響を感じる人が出始めると言われてます。
AQIの6段階の数値に対する定義は次の通りです。
・0~50:Good(良い)
・51~100:Moderate(中庸)
・101~150:Unhealthy for Sensitive Groups(一般人、とくに敏感な人は皮膚がヒリヒリしたりかゆみを感じたりすることがある)
・151~200:Unhealthy(一般人、とくに敏感な人の心肺への悪影響や健康状態の悪化の可能性の増加)
・201~300:Very Unhealthy(一般人へのかなりの健康被害が懸念される。敏感な人は日常生活で耐久力の低下を感じるので、室内に留まり活動を制限するべき。)
・300~500:Hazardous(一般人、敏感な人ともに炎症や有害な健康への影響があり、他の疾患を引き起こす原因にもなりうる。誰もが運動を避け室内に留まるべき。)
ですので50マイクログラム、AQI値100というのが安全圏かどうかの目安になります。
個人的に大気汚染で健康を害した経験
タイに来た当初から、バンコクは空気が汚いということは聞いていましたが、私は「郊外に住んでいるから大丈夫だろう」と高を括っており、そこまで気にしていませんでした。
しかし、これまでに2度、大気汚染が身体に与える影響というものを実際に経験し、それ以来気をつけるようになっています。
- 一度目:友人の引越しの手伝いで、タイ人よろしくピックアップトラックの荷台に乗って洗濯機を運ぶ(いちおうハンカチで鼻と口を塞いでいた)→次の日から喉がとてもいがらっぽく、風邪の初期症状のような状態に→うがい薬などを使用したが、それが消えるまで2~3日を要した。
- 二度目:休日の朝に45分ほど近くの公園でランニング(運悪くPM2.5の値が高い日)→昼過ぎからからだ全体、とくに背中の辺りに異様なだるさを感じはじめる→夜にはものすごい寒気がして、気温が低いわけではないのに温水シャワーから出られないほどに→夜間は発熱→翌日、クリニックで医師から「激しい運動で大気の汚染物資が急激に体内に取り込まれたため」という診断。

大気汚染が深刻化するアジア地域
まず地理的に、タイという国が中国は言わずもがな、休校が相次ぎ空港の滑走路も一時閉鎖されるなどの事態に陥るインド、国民の10%の死因が大気汚染に起因していると言われているベトナム、大規模な野焼きや山火事でマレー半島まで被害を与えているインドネシアに四方を囲まれているということがあります。
タイだけでなくマレーシアでも、利用しやすい石炭火力発電に依存しているのも問題ですし、お隣カンボジアで樹木や草木を燃やしたものがタイに流れてきているという学者の指摘もあります。
タイでのPM2.5の発生源とバンコク行政の取り組み

(https://www.thethailandlife.comより引用)
タイにおけるPM2.5の発生源
PM2.5はいったいどこで発生するのでしょうか?
ฝุ่นพิษ PM 2.5 มาจากไหน? ...กว่า 52% ของฝุ่นพิษ มาจาก 'ไอเสียดีเซล’ ที่เผาไหม้ไม่สมบูรณ์#ฝุ่นกรุงเทพ #ฝุ่นละออง #ฝุ่นพิษ #ไทยรัฐ pic.twitter.com/UT4CrSzPLH
— Thairath_News (@Thairath_News) 2019年1月22日
ディーゼル排気
こちらの記事によると、まず不完全燃焼するディーゼル排気が挙げられます。
タイでは年式の低い車が多く走っており、特にバンコクのほとんどのバスは20年以上の運行歴があるので、エンジンはとても良好な状態とは言えず、そこらじゅうにスモッグを放出します。
もちろん、このスモッグはバスだけではなく、建設用トラック、普通自動車、そしてトゥクトゥクからも発生しています。
野焼き
次に多いのは野焼きです。
タイの農家は、伝統的に畑を燃やすことで雑草を駆除し播種シーズンに備えるのですが、草木が燃える煙のことを煤塵(ばいじん)と言い、人体に非常に有害な物質、つまりPM2.5が含まれています。
建設現場
現在、バンコクではBTSとMRTの路線拡大に伴って至る所で建設工事が行われているため、大量の粉塵が発生しています。
また、ただでさえバンコクは交通量が多いのに、工事のために道路が狭くなったり迂回路を通らなくてはならなくなるため必然的に渋滞が起こり、自動車からは多くのCO2が大気中に放出されます。

その他
大気汚染は工場や発電所からも発生します。
*野焼きや工場、発電所からの汚染はバンコクでは起こりませんが、汚染物質は気流により周辺の地域からバンコクにもたらされます。
行政の対応は一時的・部分的
ただ、タイの名誉のために書くと、行政も事態をただ手をこまねいて見ていたわけではありません。
1990年代初頭からディーゼルとガソリンに含まれる硫黄や鉛成分を取り除くなど、大気汚染の抑制に取り組んできました。
タクシーも天然ガスを燃料としていますし、2010年にはブリブリという爆音とすさまじい黒煙を上げてバンコク都内を我が物顔で走っていた緑の小型バスが廃止に。
現在走っているノン・エアコンバスもあと数年で姿を消すようです。
来タイ当初はだいぶお世話になったが、最近はほとんど利用することがないノン・エアコンバスが、2022年でお役ご免となる予定。29年間も走っているのか...どうりで黒煙も撒き散らすわけだ。Bangkok’s era of open-air buses to end in 2022 https://t.co/zspSFsUFm5
— バンコク郊外の大学講師🇹🇭 (@thaifoodfun) 2019年3月19日
バンコク都内では、特に汚染がひどい路面の汚染物質を洗い流したり、航空機を使って空から塩化ナトリウムを散布し人工的に雨を降らせる試みをしています。

首相は、悪化する一方の大気汚染問題を解決するために、車の使用を制限(単独での運転やディーゼル車の使用禁止、走行台数の制限など)するなどの厳しい措置をとる決心をしていると語った。
今後は、
- 電気自動車やハイブリッド車の生産を拡大
- 旧型バスからNGV(天然ガス車)への交代と鉄道網の整備
- ディーゼルガソリンに代わる燃料として植物油やパーム油を原料とするB20という燃料を導入
などにより、PM2.5の排出量を少なくとも現在の15%以上抑える方針です。
タイでのPM2.5対策
それではどうしたらいいかというと、
- 情報収集
- PM2.5の値が高ければ外出を極力さけるか、外出時間を短縮する
- 外出の際にはアメリカのN95、日本のDS1規格のマスクを着用する
- 窓を閉め、室内では空気清浄機を使用する
- エアコンにもフィルターを施す
- 植物を室内に置く
といった対策を個人でとる必要があります。
情報収集

とある日のPM2.5の状況。酷い日はこのように一日中値があまり変わりません。
以下のウェブサイトまたはアプリで日々状況を確認してください。
- 世界の大気汚染:リアルタイム大気質指数ビジュアルマップ(リアルタイムでタイを含む全世界の大気汚染状況を確認できます)
- タイ公害管理局のフェースブック (タイ語オンリーですが、1日数回PM2.5関連情報を配信しています)
- タイ郊外管理局のウェブサイトおよびアプリ
- エア・ビジュアルのウェブサイトおよびアプリ
マスクの着用
マスクですが、N95という規格のものであればPM2.5を95%以上遮断してくれます(アメリカ国立労働安全衛生研究所による)。
2003年に香港でSARS(重症急性呼吸器症候群)が猛威を振るったときもこのマスクが使用されました。
日本のDS1という規格のものでもOKで、とにかく微小粒子物質をできるだけ防ぐことができるものを、上の写真のように、顔とマスクの間に隙間ができずしっかりフィットさせるように着用することが重要です。
2019年2月現在、バンコクとその近郊ではマスクの品切れが続いており、偽物が大量に出回っているような状態です。
昨日、セントラルのドラッグストア3件のぞいて全滅だったのでどうしようかと思い、たまたま近所のセブンの隣のローカル薬局で聞いたら、防御率96% のN95はやはり売切れだったが、94%くらいのこのマスクがあったので買い占めた。一つ25バーツ。#バンコク大気汚染 pic.twitter.com/7bmZT5IFri
— バンコク郊外の大学講師🇹🇭 (@thaifoodfun) 2019年1月28日
日本の方が品揃えは豊富で安価(排気弁がついたもので、20枚で2,000円程度)ですので、帰国時に少し買いだめしておくか、この時期にタイに来る出張者、家族、友人などが持ってきてくれると、在タイ者は喜ぶと思います。
なお、どうしてもN95規格のマスクが入手できない場合、
このように
- 通常のマスクの中に2つ折りのティッシュペーパーを入れる
- マスクを2重に着用する
などの代替方法がネット上で紹介されていましたが、チュラロンコーン大学の教授によるとこれには確固たる根拠がなく、研究結果が出るまでこのような情報をリリースするのは控えて欲しいということです。
空気清浄機
うちのように育ち盛りのお子さんがいらっしゃれば、室内でも気をつけたいところです。
空気清浄機は、8畳くらいの部屋をカバーできるこの製品か類似のものが、タイに持って来れる限界ではないかと思います。
もっと広い部屋用には現地で購入するしかありませんが、家電製品の店頭では見本も合わせてすべて品切れというところがほとんどでした。
タイのECサイト大手、Lazada や Shopee では見つかるものの Pre Order(予約販売)となっていて、すぐに配送してもらえないものもありますので注意してください。
エアコンのフィルター
以上のような対策を施しても、毎日使うエアコンが汚染された空気を取り込んでしまっては元も子もありません。
そこで、エアコンに3MというメーカーのFiltreteという布状のフィルターを、エアコン内部のフィルターに付けることをお勧めします。
タイの大手ホームセンターであるHomeProで、一番大きい15x96のサイズでも459バーツでした。
大きすぎる場合ははさみでカットするなど適宜工夫し、取り付け方はこの動画を参照してください(英語ですが見るだけでわかります)。
植物を室内に置く
私は観葉植物が好きなんですが、年一回の一時帰国の際には1ヶ月ほど留守にするため、これまでタイでほとんど植物を買ったことがありません。
ですが、室内でPC作業をしていても目がかゆくなるような状態になり、空気清浄効果が高い植物を買ってみることにしました。
参考記事:寝室で育てることができ、汚染物質を吸収する10種類の木(タイ語)
こちらの記事では以下の10種類の植物をすすめています。
- カンノンチク(Lady Palm)
- スパティフィラム(Peace Lily)
- アレカヤシ(Areca Palm)
- アロエベラ(Aroe Vera)
- アグラオネマ(Chinese Evergreen)
- オリヅルラン(Spider Plant)
- セイヨウタマシダ(Boston Fern)
- セイヨウキヅタ(English Ivy)
- ベンジャミン(Weeping Fig)
- シンノウヤシ(Dwarf Date Palm)
いづれも熱帯域を中心に分布し、観賞用に栽培されるものですので、お好きなものを室内に飾ってみるのもよいと思います。
追記:ペットをPM2.5から守るには
犬や猫などのペットを飼っている方もいらっしゃるかも知れません。
大切な家族の一員をPM2.5から守る方策としては、以下を参考にしてみてください。
- 屋外での活動を控える:PM2.5の値が高い日には屋外への散歩をせず、呼吸器疾患にかかりやすい犬や猫は外出の際も車中にとどめておく
- 室内を清潔に保つ:フローリング床掃除はなるべく天然由来の洗浄剤で水拭きをし、エアコンを入れ、部屋をなるべく乾燥させないようにする
- 常にペットの状態を観察する:皮膚の発疹や眼の炎症、鼻水、痰、咳、くしゃみ等がないか常に気を配り、頻繁な息切れや極端な食欲低下などがあればすぐに獣医師の診察を受ける(1歳未満または6~7才以上の動物はとくに注意が必要)
- ペットをリラックスさせる:PM2.5が40㎍/㎥以下のときに散歩に連れて行く。その際にも長時間の外出させず、自宅に戻ったら濡れた布やティッシュでペットの顔や足をきれいに拭いてあげる。1日2〜3滴の点眼をする。冷たい水を飲ませ、水は頻繁に変えて清潔さを保つ。
最後に
問題は、政府や行政の対応が後手後手に回っていて、どのくらいで大気汚染が収束するかわからないことです。
この記事を執筆時点で、バンコクと近郊の幼稚園から大学まで数日間休校措置が取られましたし、息子が通う小学校では始業時間を普段より遅らせています。
また、観光スポットであるバンコクの王宮広場前も53㎍/㎥という高い数値を記録していますし、パタヤやシーラチャーでも安全基準を超えている濃度になっているとのことです。
タイの大気汚染は、前述の政府の解決策からみてもわかる通り、すぐに解決できる問題ではありませんので、私たちは自分で自分の身を守る必要があります。
この記事がみなさんと大切な方を守る基本的な指針となれば幸いです。